原因不明の『かむと痛い』の正体は、歯がヒビ割れていた?- partⅡ- 〜経過不良編〜
前回のブログ原因不明の『かむと痛い』の正体は、歯がヒビ割れていた?〜経過良好編〜に引き続き、今回は、経過良好な場合もあれば悪い場合もあるヒビ割れをお伝えします。
前回ご紹介したヒビ割れの2つ、クレーズラインと咬頭破折は、軽症で診断も比較的容易ではありますが、今回のヒビ割れは、診断がやや困難です。
では、3つご紹介します。
1.クラックトゥース(cracked tooth)
crackの意味は、裂け目、割れ目、あるいはヒビです。
では、どんなヒビ割れか?
図で表すと
実際の歯で見ると、
最も重要なのは、患者さんが訴える『かむと痛い』の原因を究明することで、診断の第一歩となります。
では、実例をみてみましょう。
クラックトゥースの実例
『半年くらい前から、左上の奥から二番目の歯でかむと痛い。かむと、頭の方にピキーンとした鋭い感覚がある』を主訴に受診されました。
咬頭ごとの打診痛はなく、バイトテストで他歯とは異なった感覚がありました。
メチレンブルーで染色したところ、ヒビ割れが染め出されました。ただし、染め出されないヒビ割れもあるので注意をしなければなりません。
矯正用のバンドで歯を囲いました。
このステップは、診断をかねた治療になります。
後戻りができなくなるような診査は避けるべき、と考え、歯質を削らずに矯正用バンドを使って歯を固定しました。
次の診療日には、『かむと痛い』、そして歯髄症状も消失したため、クラウンをかぶせて、現在経過観察中です。このケースに限らず、遅かろうと早かろうと、ヒビ割れは、将来的に進展します。ヒビ割れが進展している、あるいは歯髄症状が出てきたら、タイミングよく治療の介入ができるように、定期的な経過観察を行うことは、非常に重要です。
2.スプリットトゥース(split tooth)
スプリットトゥースの実例
白い矢印で指している歯を拡大してみると、
ヒビ割れているのがわかります(白い矢印)。楔をかけるとワクワクと動くので、動いている部分を除去します。
動いている部分を除去した後の写真です。根の長さがどのくらい残っているか、が歯の保存可否を決定するキーポイントになります。
根の長さが十分あるようなら、手術的な方法か、矯正力を使って保存できる可能性はあるでしょう。歯の頭の部分と根の長さのバランスが悪ければ、保存は難しいかもしれません。
3.垂直性歯根破折
実例で見ると
拡大すると
根っこが割れています。↗︎
このように、垂直性歯根破折の診断を目的に処置をせず、直視できる場合もあれば、治療を行いながら直視することもあります。なぜならば、
垂直性歯根破折の確定診断は、ヒビ割れを視認すること
だからです。では、どんな時か?かぶせものがあってヒビ割れを直接見ることができない場合です。かぶせものや土台を取って、視認できる状況を作り、診断をかねた治療を行います。治療のステップが進むたびに垂直性歯根破折の診断をしていく、というイメージです。
垂直性歯根破折の実例
実際のケースを例に挙げると
かむと痛みはなく、歯周ポケットも正常。しかし、実際はヒビ割れていることもあります。
垂直性歯根破折をレントゲンで一目瞭然に判断できるのは、
←このように、根っこが本来あるべきところにない場合です。
治療法は、現在のところ抜歯です。今後、接着という技術が進歩すれば、垂直性歯根破折の歯でも保存できるような時代がやってくるかもしれません。垂直性歯根破折を防ぐには、歯質削除量は必要最小限、根管治療の際には、歯に負荷をかけすぎないことが鉄則です。
患者さんが訴える『かむと痛い』の原因が歯のヒビ割れである場合、長い間痛みを抱えている方が多いように思えます。もし、『かむと痛い』が発症した時にヒビ割れがわかれば、長期にわたって痛みを抱えず、迅速な治療の介入により、重症化せずにすむかもしれません。
ヒビ割れが原因で『かむと痛い』のであれば、早期診断・早期治療・早期解決が鉄則です。
『かむと痛い』の原因について、経過良好編と経過不良編、2回に分けて書きました。ヒビ割れの原因や好発部位、予後については、今後、お伝えします。